太田光が見せたウエストランド河本タクシー騒動公開説教の神対応 ネット社会に必要なのは「ゆるす力」

 インターネットを通じて誰もが気軽に自分の意見を発信できるようになったことで、「一億総炎上社会」が到来した。有名人から一般人まで、あらゆる人がちょっとしたことで猛バッシングの対象になり、血祭りにあげられる。

 政治家や芸能人だけではなく、一般人も何気ないことでネット上に写真や動画をさらし上げられ、個人情報を特定され、一生消えないデジタルタトゥーを刻まれてしまう。

 そんな地獄のような大炎上時代に、芸能人としては致命的なトラブルを起こしながらも、ほとんど何のバッシングを受けることもなく、なぜか無傷で戦場をくぐり抜けてしまったのが、ウエストランドの河本太である。

『M-1グランプリ』の王者でもある彼は、タクシー運転手とトラブルを起こした。JR品川駅のタクシー乗り場ではない場所で、河本がタクシーに乗ろうとしたところ、前の客を降ろした運転手がドアを閉めてしまった。泥酔していた河本は、それを乗車拒否だと思い込み、車体を蹴り上げた。そこで怒った運転手と河本はもみ合いになり、運転手に噛みつき、前歯を3本折る怪我を負った。警察が事情聴取したが、話し合いの結果、事件化されることはなかった。

■活動休止ではなく本人の口から

 この件が報じられると、所属事務所タイタンの太田光代社長がマスコミからの取材に対応して、活動休止はせずに「本人の口からきちんと話す機会を作りたい」と語っていた。

 人によっては大炎上してもおかしくない一大事だが、芸人仲間からも「河本ならば仕方がない」といった反応が多く、ネット上でもほとんど批判的な意見が出ることはなかった。

 結局のところ、この手の芸能人のトラブルでは、もともとのイメージの良さ、知名度の高さ、事件の性質や程度によって世間の反応は大きく変わる。

 率直に言って、河本はまだタレントとしてそこまで顔が知られているわけでもないし、知っている人から見ても特別にイメージが良いタイプでもない。トラブルの性質としても、酔っ払って自分からタクシー運転手に絡んでおいて、返り討ちに遭って結果的に歯を折ってしまうという、実に情けない話でもある。これらの点から、彼はほとんどバッシングされることはなかった。

 タイタンという事務所には、問題を起こしたタレントの独特の「みそぎシステム」がある。それは『火曜JUNK 爆笑問題カーボーイ』に出演して、事務所のトップタレントである爆笑問題からお言葉を頂戴する、というものだ。河本の相方の井口浩之も、下半身露出画像がネットに流出してしまうという通称「いぐちんランド事件」を起こした際にも、この番組に出演して反省の態度を示していた。

 番組の冒頭で、爆笑問題の2人は少し話をした後、ゲストとして河本と井口を招き入れた。そして、太田光は河本に対して、諭すように優しく話をした。自分の若手時代のことも触れて、プロの芸人は決められた時間を埋めるのが仕事だから、トラブルを起こして仕事に穴を空けてはいけないんだと語った。

 酒に酔って問題行動に走った河本に対して「これから大晦日にかみさんが酒をすすめてきたときに断れるかどうかだ」と、落語の『芝浜』になぞらえた冗談も挟んでいた。

■「仕事で笑わせるように」と

 最終的には、河本の反省の言葉を聞いた上で「我々は大衆芸能ですから。あとは判断するのはお客さんです。河本はこれからがんばって、仕事で笑わせるように」と締めくくった。

 上から目線で一方的な説教をするのではなく、自分が失敗して学んだ話もする。そして、常に後輩である河本に寄り添って、お前は身内だから見捨てることはない、というスタンスを崩さない。太田が上司にしたい芸能人アンケートで1位ではないのが不思議なくらいの神対応だった。

 失敗した人間を叩くのは簡単なことだ。しかし、全面的にその人に寄り添って、必要な言葉を投げかけるのは、誰にでもできることではない。

 安っぽい怒りや批判の声ばかりが飛び交うこのネット社会で本当に必要なのは、太田が持っているような「ゆるす力」ではないだろうか。(お笑い評論家・ラリー遠田)

2024-05-04T02:41:07Z dg43tfdfdgfd