「PSVR2」を自腹で買って1年2ヶ月……プレイ感や不満、足りない点を忖度抜きで語る! 現状を変える“2つのポイント”にも注目

仮想空間に入り込んだような疑似体験を楽しめる「バーチャル・リアリティ」。その歴史は意外と古いものの、個人レベルで気軽に楽しめるようになったのは、2010年台に入ってから。家庭用のゲーム機で触れられる機会は、2016年発売の「PlayStation VR」あたりが皮切りと言えるでしょう。

PSVRは大きな期待と注目を集めていましたが、需要に供給が追い付かず、また転売の問題もあったため、ユーザーへの普及は思うように進まず、うまく盛り上がれないまま年月が過ぎてしまいます。

そこから約7年の時を経た2023年2月、PS5用のデバイスとして「PlayStation VR2」が発売されました。今回は供給量も十分整っており、購入難に直面する事態はほぼありません。

筆者も、問題なくPSVR2を発売日に手に入れたユーザーのひとりです。そこから1年2ヶ月、このVR機器と共に歩んできました。今回はその歩みを振り返りながら、PSVR2の使い勝手から体験の価値まで、個人的な視点を忖度なく語らせていただきます。

■その体験には、代えがたい価値がある

VR体験は、やはり刺激的で魅力があります。PSVRやMeta Quest 2なども使ってみましたし、それぞれ思い出深い体験を味わいましたが、PSVR2でも同等かそれ以上のひとときを楽しみました。

まず機器としての性能は、今改めて見つめ直しても必要十分だと感じます。解像度やリフレッシュレート、視野角などの基本的な性能は、ライバル機のひとつ「Meta Quest3」と比べても肩を並べていると言えます。

機能面では特に「視線トラッキング」が心地よく、視線がゲーム性に直結する体験はVRならではと言えるでしょう。また、ヘッドセットの振動は、ゲーム側の演出として上手く用いられると、没入感が増したような印象を覚えました。

PSVRと比べると、設置するカメラが不要となり、接続するコードも1本に集約。そのおかげでセットアップの負担もかなり軽減されました。スタンドアローン型VR機器と比べると手間はありますが、ゲーム上の処理をPS5に任せられるのはやはり強みでしょう。

PCと無線接続できるVR機器との比較は、PC自体の性能にも左右されるため、単純な比較は難しいところ。PCとの無線接続はプレイする上でかなり便利ですが、設定が必要なので不慣れな人だとちょっと手こずりそうな印象を受けました。

PSVR2は、有線による縛りがあるものの、その分安定性では上回っています。また座った状態でプレイするなら、有線の煩わしさもほとんど感じません。

単純に性能が向上したことで、PSVR時代と比べると表現はよりグレードアップし、体験はさらに豊かになりました。コードの有無については意見が分かれる部分ですが、その点を除けば性能面で大きな不満はない素晴らしい機器と言えます。

■では「PSVR2」はお勧めなのか?

PSVR2の感触は全般的に良好で、ひとまず性能面で大きな不満はありません。ですが、「なので、買うべし」と押せるかと言えば、正直悩ましいところです。

PSVR2はいくつかの問題も抱えており、その多くは性能とは関係ない部分に及んでいます。まず、価格が高い印象はどうしても拭えません。性能を踏まえれば納得の行く面もありますが、74,980円(税込)は気軽に出せる値段ではないでしょう。

筆者は仕事で使うこともあって購入に踏み切りましたが、完全にプライベートのみの使用だとしたら、もう少し安く手に入るまで様子見していた可能性もあります。すでにPS5を持っていたとしても、74,980円はかなりの高額。機種にもよりますがスマホも買い替えできそうな額なので、VR体験だけにつぎ込むにはかなり強い意志が不可欠です。

また、価格面の問題がなかったとしても、専売ソフトの少なさ、魅力的なラインナップの弱さが気になります。ソフトの数自体は結構な本数がPS Storeに並んでいますが、PCのVR機器で遊べるものも多く、PSVR2ならではの厚みという意味では物足りなさを覚えます。

金額も大きなネックですが、ゲーム機器の購入で最も大事なのは、「このゲームを遊びたい!」といった強い衝動が湧き上がること。『スーパーマリオブラザーズ』が衝撃的だったファミコン時代、『ドラクエ』『FF』『ゼルダの伝説』など名作ラッシュだったスーファミ時代など、キラーソフトの存在がゲーム機の普及を大きく後押しするのは昔も今も変わりません。

PSVRの頃は、代表的な作品として『サマーレッスン』がありました。そのゲーム内容自体は万人受けするものではありませんが、「魅力的な女性と2人きりでコミュニケーション」という体験は、VRならではの臨場感が加わることで、かつてない刺激と魅力を放っていました。この作品を目当てに、PSVRを購入した人も少なくありません。

また、空気感すら覚えるパイロットの疑似体験を味わえる『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』や、VRとホラーという相性の良さを成功例で示した『バイオハザード7 レジデント イービル』など、VR対応ソフトにも興味深い作品がいくつも登場しています。

こうした存在感のあるタイトルがPSVR2では欠けていると、個人的に強く感じます。他にも細かい理由はいくつもありますが、やはり「価格の高さ」と「ラインナップの弱さ」が、PSVR2の普及を阻む最も大きな問題でしょう。

■「PSVR2」にキラーソフトはないの?

作品単位で見れば、PSVR2にも素晴らしいゲームがいくつもあります。PSVR2と同時にリリースされた『Horizon Call of the Mountain』は、『Horizon』の世界をVRで表現するという難問に立ち向かい、その課題を見事クリアしました。

ポピュラーなVR体験のひとつである「高所の移動」を取り入れているため、崖登りのシーンが多いものの、その臨場感はやはり刺激に満ちています。また、実際に弓を引くようなアクションで楽しめるバトルも、同一性が感じられて満足度高め。

また、『Synapse』はありがちなFPSかと思いきや、まるで超能力者になったような疑似体験を味わうことができ、これもVRならではのプレイ感で興奮しました。

視線で敵を選び、手を握りしめるだけで拘束できる超常感。空高く放り投げれば、敵は落下でダメージを受けますし、空中で固定したまま銃で狙い撃つことも可能、そして崖下や海に投げ捨てれば敢えなく即死させられます。操作はシンプル、効果は絶大、気分は超能力者と、これほど贅沢なゲーム体験はそうありません。

そして、先日リリースされたばかりの『ソウル・コヴェナント』も、個人的なお気に入りVRソフトのひとつになりました。『ソウル・サクリファイス』のクリエイター陣が中心となって開発しただけあり、ポストアポカリプスな世界観の構築は見事の一言。そうしたクセの強い設定を、VRならではの臨場感とマッチさせた本作は、文字通りの意味で「その世界の登場人物と化す」疑似体験を与えてくれました。

アクションが激し過ぎると「VR酔い」を容易く招きますが、単調な動きだけではゲームとして手応えが薄くなる。この難問に敢然と立ち向かい、剣や鎌といった近接戦闘によるアクションゲームをVRで成立させる手腕と挑戦心、そこに独自性の高い世界観が加わり、VRでしか体験できないゲーム性を確立させた1作です。

時間が経つのも忘れて没頭してしまう、魅力的なPSVR2ゲームはいくつもあります。ですが、これは「遊べばわかる面白さ」を持ったゲームがほとんどです。PSVR2を支えるにはこうしたゲームの存在も必要不可欠ですが、今もっとも求められているのは、「遊ぶ前から、問答無用で購入意欲をかき立てるパワフルなゲーム」に他なりません。

曖昧かつ無茶な要求なのは百も承知ですが、現状足りないものを忌憚なく考えると、この結論が真っ先に思い浮かびます。現状、PSVR2は活気があるとは言い難く、この空気感と現状を一変させるには、パンチのある展開が急務です。

■PSVR2に期待する「2つの糸口」

PSVR2を牽引するキラーソフトが登場するかどうかは、SIEや開発者の尽力に期待するほかありません。ですが、PSVR2が盛り上がる糸口や可能性がほかにないのかと聞かれれば、個人的には2つの点に注目しています。

ひとつは、既に搭載されている機能「シネマティックモード」の存在です。これはVR体験とは直接関係なく、PSVR2の性能を活用し、大画面のように感じる表示でゲームや映像が楽しめるモードのこと。

機能の名称から、映像鑑賞用だと受け止めている人がいるかもしれませんが、このモードでゲームのプレイも可能です。映画館とまでは言いませんが、視界にかろうじて納まるくらいの大画面でプレイするゲームは、現実世界のTVやモニタよりも迫力をダイレクトに感じ、圧倒的ですらありました。

またシネマティックモードだと、ゲームや映像以外は全て黒塗りで染まっているので、自然と意識が集中しやすく、没入感の向上にも役立っているように思います。現実ではなかなか適わない大画面&没入しやすい環境で、映像やゲームをとことん楽しめる。このメリットを適切に宣伝できれば、従来とは違う層にもアピールできる可能性が十分あります。

今回改めて、非VRの『ステラーブレイド』をシネマティックモードで遊んでみましたが、迫力も描画も動きもお尻も圧巻。普段使っている32インチのモニタと比べても、身に迫るがごとき圧力が段違いでした。

ですがシネマティックモードのゲームプレイは、動きの激しいゲームの場合、人によっては酔いかねません。VRゲーム以外でもVR酔いを誘発する可能性はあるので、自分の体質やプレイするゲームの見極めは必須です。

そしてもうひとつ、現段階ではまだ未実装ですが、PSVR2のPC対応が予定されています。これが実現すれば、PC接続を視野に入れたユーザーが、PSVR2を購入する流れが生まれるはず。その際に強力な専売タイトルがあれば、現状を変えるきっかけになるかもしれません。

PC対応の予定を報告した「PlayStation.Blog」では、「PS VR2をお持ちの皆さんには、PlayStation 5でお楽しみいただけるPSVR2タイトルに加え、より幅広いゲームをPCでもお楽しみいただけるよう、現在機能のテストを実施しております」とコメントされており、いちユーザーとしても期待が高まるばかりです。

ただし、接続方法を含めてどのような形になるのか、またPC向けのVRゲームも対応するのか、そうした詳細はまだ不明です。「年内には対応を実現したいと考えております」とのことなので、今は朗報の到着を願って待ちましょう。

現時点でPSVR2を勧めるかどうかと聞かれれば、忖度抜きで「今は様子見」と筆者は答えます。体験する価値は十分ありますが、価格とラインナップのつり合いは取れているとは言えず、今後の展開もまだ保証しかねるからです。

ですがこの答えには、「様子を見る価値がある」という意味も含みます。PC対応から新たな展開が生まれるかもしれませんし、その性能は必要十分。VR機器は価格に応じて性能も変動し、PSVR2より高い機器もゴロゴロしており、価格と性能のバランスは決して悪くありません。

良くも悪くも先行きがまだ見えないPSVR2ですが、だからこそ今後も目が離せません。さあ、次に遊ぶPSVR2ソフトを探さねば!

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